発想上の盲点
人類の初めての調理は、おそらく炙り焼きのようなものだったとされている。
そこから鍋で何かを茹でる、鍋料理が生み出されるまでどのくらいの時間がかかったか。
数十万年である。
人類はまだ鍋を手に入れてから数千年の歴史しかないのだ。ある意味最近の技術ともいえる。
鍋を使うことで、病人や老人も食べられるくらい柔らかい料理を作れたり、焼くには向かない植物を調理できたりと、料理の幅は格段に広がった。
でも、どうして数十万年もの間、誰も鍋を思いつかなかったのだろう?
熱で調理するのは炙り焼きと変わらないわけで、そんなに難しい発想なのか?
やはり、盲点だったのである。
火は、非常に扱いづらい道具だった。まず、おこすのが難しい。一度消えると作るのが困難なため、遊牧民族などは火を持ち歩く道具を作ったほどだ。
一方、水は火を消してしまうものの代表格である。
そんな水を、貴重な火のそばに置くだろうか。合わせて使って、料理をしようなどと考えられるだろうか。
数十万年の時間からは、人間の合理的思考が垣間見えるようだ。鍋を発明した人間の発想力に改めて感じ入るものがある。