ある作家のメモ

自分用メモ

犬と黒人と機械

ターンスピットという犬種がいる。ただ、現在はもういない。必要がなくなったからだ。

 

この犬は、短い脚と長い胴を持ち、車輪状の檻の中に閉じ込められる。そしてひたすらその中で走らされる。

 

回転する車輪の力は滑車を通し、長い鉄製の串を回す。その串には肉が突き刺さっていて、じゅうじゅうと火に炙られている。

 

ロースト肉を作るための犬なのだ。

 

ローストの語源はローテーションの語源に繋がるそうだが、古来肉とは回転させなければ直火で調理できないものだった。簡単に焦げてしまうからである。

 

やがてロースト肉は串と直火ではなく、オーブンやコンロで作られるようになったが、それまで人間は、肉を回転させるための労働力を常に必要とした。

 

それは犬に始まり、動物愛護団体が怒ると、黒人奴隷になり、それも倫理的に非となると、機械が代行した。アヒルなんかが使われたこともあったらしい。

 

それにしても、心は痛まないのだろうか。その肉を食べられもしない者に、ただひたすら何時間も肉を回転させ続けることに。

 

そう、痛まないのである。痛まないから存在したのだ。

 

僕たちも現在進行形で、何らかのターンスピットの恩恵に浴しているはずだ。